てんかん日記|東京大学脳神経外科 國井尚人先生と齊藤 延人先生による寄稿が秀逸すぎる件

昔だと自動車の運転や高所などの危険な場所での労働など、一般の人に比べて社会生活が大きく制限されたりしたようですが

発作さえ起きなければ普通の人と何ら変わりは無い

ということに着目した東京大学脳神経外科の國井尚人先生と齊藤 延人先生による寄稿があまりに良かったので(笑)是非たくさんの人に読んでいただきたい思い、自分の経験などを交えながら掲載してみました。

てんかん診療に必要な法・制度の知識―社会保障制度と運転免許制度

東京大学脳神経外科 國井尚人、齊藤 延人

てんかんとは慢性の脳の病気で、大脳の神経細胞が過剰に興奮するために、脳の症状(発作)が反復性(2回以上)に起こるものである。

これに則って急性症候性発作、心因性非てんかん発作、失神などの、てんかんと鑑別すべき病態を除外することがてんかん診療の第一歩である。しかしながら

これはしばしば困難で

てんかん診療の第一歩でいきなりつまずくことが少なくない。また、正しくてんかんと診断されても

適切な薬剤を選択することはてんかんを専門としない医師にとっては必ずしも容易ではない。

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非常に簡単にわかりやすく説明されています。そしてその発作が

  • 急性症候性発作・・・何らかの原因によるよく似た発作
  • 心因性発作・・・心臓から起因する発作
  • 失神

医師はこれらによる発作とを区別しなければならないが、容易ではないと言っています。

診断や治療が適切でなかった場合には,以下に述べる社会保障が適切に配分されないばかりか、自動車運転に関する不測の事態を招くことにもなり得る。

ときには専門医に相談しつつ、できるだけ正しい診断、適切な治療(食事療法,薬物治療,外科治療)、必要な指導・助言(服薬・生活指導、妊娠指導、自動車運転、社会資源の利用)を行っていくことが大切である。

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現在患者が運転免許証の更新の際既往歴を申告する事により最悪“取り消し”になることもあるし

医師が適切な治療や投薬を行わなかったことで患者が大事故を起こす可能性も大いに考えられるので

近くの医師だけではなく時々は専門医の診断と発作を完全にコントロールできるような治療・投薬を行っていただくのが大切です。

また、必ずしも正しい診断と適切な治療が行われることが患者の幸福につながるとは限らない。

手術をしててんかん発作がなくなったことにより障害者認定が取り消され、長年親しんだ職場を離れて不幸になる。ということもあり得る。その意味でも患者を取り巻く法・制度をよく知っておくことは脳神経外科医にとって重要である。

てんかんに関する法・制度を知るうえで、てんかんの疾患としての特殊性についてよく理解しておく必要がある。

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脳外科界の権威ともいえる先生から・・・というか、豊かな暮らしをしているであろう方からこのようなお言葉をいただけるとは思ってもみませんでした。全くもっておっしゃる通りなんですが

現在、医大や大きな総合病院の先生方は、忙し過ぎて患者に対してこのような配慮するのはほぼ不可能な状態だと思います。

てんかんが他の脳疾患と際立って異なるのは、発作によって日常生活に支障が生じる点である。

たとえ短時間であっても、意識の連続性が途切れるということ、発作が予測できないことは,ただ生存していくだけでも大きな脅威である。

一方で,発作が起きていないときには認知的にも身体的にも何の障害もない患者が多い。したがって、てんかんの法・制度は,発作による日常生活・社会生活上の障害を補塡しつつ、非発作時の生活を保障する(制限しすぎない)ものであることが望ましい。

(サイト管理人)

全くその通りだと思います。実際投薬がうまくいけば発作はほぼ完全に止まることが多いようです。なので患者としては一旦発作をコントロールできたら

“薬の飲み忘れ”

に、十分注意すれば“治癒”と言っていいほど健常者と全く相違ない状態です。

てんかんの病態が患者ごとにきわめて不均一であることもてんかんの法・制度を複雑にしている。

発作の重症度、認知機能障害、併存する知的/精神障害の有無によっても異なる対応が必要となる。

てんかんの多くが若年で発症し、長期にわたって罹病する点も重要である。このような特殊性を持つてんかんであるが、法・制度上は、独立した疾患としてではなく、“精神障害”に位置づけられている。

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原因や症状、発作の種類も様々なのに行政では

“精神障害”

という的外れな位置づけになっているので、独立した疾患として扱うべきである。

本稿ではこのような前提に基づいて、脳神経外科医がてんかん診療を行っていくうえで知っておくべき,社会保障制度と運転免許制度について解説する

 

社会保障制度

 

社会保障制度は,社会保険,社会福祉,公的扶助,医療・公衆衛生の4本の柱から成り,われわれが安心して社会生活を行っていくうえで,なくてはならない重要な枠組みを構成している。

2016年の日本の社会保障費は30兆円を超え,これは国の一般会計歳出の33%に相当する。

少子高齢化が一段と加速する中で,この膨大な社会保障費をどうやって維持していくのかは大きな課題である。

このような途方もない数字に対して,われわれ一人ひとりの脳神経外科医が社会保障制度の適正利用にどれほど貢献できるかといった観点はもちろん重要ではあるが

毎日の診療の動機づけとなるのはむしろ目の前の患者の生活の質をどうやって高めるか?どうしたら社会復帰できるのか?

という疑問や、山積みの診断書業務をいかに効率よく処理するか?といった問題であろう

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医師として「どうしたら政府の社会保障費を抑制できるか?」ではなく

「どうしたら目の前の患者を社会復帰させることができるか?」

に意識を向けるべきだろう。

てんかんに関連する社会保障制度を抜粋した。数多くの制度があり、そのすべてを脳神経外科医が理解することは不可能である。

原則を理解し、利用頻度の高い制度について大まかに理解しておけば十分と考える。ここでは脳神経外科医が最低限知っておくと役に立つ社会保障制度として

  1. 自立支援医療
  2. 手帳制度
  3. 障害支援区分認定
  4. 障害年金
  5. 障害者雇用制度

に焦点をあてて解説する。

 

1:自立支援医療(精神通院医療)

障害者総合支援法に基づく制度であり,てんかんの診断で通院治療していれば適用可能で,発作抑制の有無は問われない。

外来診療における当該疾患に関する検査・治療費の自己負担が10%に減額される

所得に応じた負担上限も設けられている(最大2万円)。

入院診療費には適用されない

てんかんは罹病期間が長いため,薬価が高い新規抗てんかん薬の導入にあたってはとても便利な
制度である。

心身障害者医療費助成制度(いわゆるマル障)は,障害者手帳所持者の医療費を助成するための別の制度であるが,自治体によっては精神障害がカバーされていないことも多い。

自立支援医療はこれを補塡する位置づけにあるが,マル障と違って入院費や精神疾患・精神障害以外の医療費には適用されない。このため精神障害者における医療費の負担が問題となっている。

一方で対象外の疾患についても自立支援医療を適用することも医師の裁量で可能な部分もあり,その是非が問われるところである。

自立支援医療は登録した医療機関・薬局にかぎり利用可能なので,たとえば転移の際には登録をし直す必要がある。

診断書は比較的簡便なもので,記載事項は多くはない.診断書記載の診療科は問わない。患者による1年ごとの更新が必要だが診断書の提出は2年に1回でよい。なお,後述する精神保健福祉手帳の診断書は自立支援医療の診断書を兼ねており,重複して記載する必要はない。

(サイト管理人)

私も使わせて頂いてます。

今使っている薬が最新の薬で、ジェネリックが無く非常に高価な薬のため大変助かっています。

手続きは町役場にて行いました。注意事項としては上記にもある通り

  • 減額されるのは診療代と薬代だけで手術・入院代には適用されません
  • 登録できるのは病院と薬局、各一箇所ずつだけで、転院する時は転院先の病院と薬局を再登録する必要があります。

2:手帳制度

手帳制度には

  • 身体障害者に対する身体障害者手帳(身体障害者福祉法第15条,1949年)
  • 知的障害に対する療育手帳(厚生省児童家庭局長通知「療育手帳制度の実施について」,1973年)
  • 精神障害者に対する精神障害者保健福祉手帳(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第45条,1995年)

があり,それぞれ根拠法と施行年度が異なる。手帳を取得することにより

  • 税制上の優遇
  • 交通運賃の減免
  • 公共施設利用料の減免
  • 医療費補助
  • 就労援助

などが受けられる。ただしこれらの優遇措置には根拠法による格差があり、自治体によっても適用のされ方が異なる。

3つの手帳の中で精神障害者手帳は,最も減免・優遇の程度が少ない

なお,3つの手帳を重複して取得することは可能である

以下,精神障害者保健福祉手帳について述べる。手帳の表紙には「障害者手帳」と書いてあるので,単に障害者手帳と呼ばれることも多い

申請には初診から6カ月以上経過している必要がある

診断書は診療科を問わず作成可能である。手帳の有効期間は2年であり、他の2つの手帳がより長期~無期限であることを考えるとこの点でも精神障害者手帳は不利といえるが身体障害や知的障害と比べると,精神障害がより可逆的な病態(病状が快方に向かうかもしれない)を含むことを反映していると考えられる。

実際,2年ごとの更新の際には,発作が抑制されており,等級が下がってしまうことはめずらしくない。

診断書の記載を少しでも患者に有利になるように解釈して記載しようとしても、たとえば自動車運転の診断書に2年以上発作なしと書いてある場合には,少なくともてんかんを根拠に精神障害者手帳が発行されるような診断書を記載することはできない。

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2年後に精神障害者保健福祉手帳を継続して更新できるようにお医者さんに“手心”を加えてもらおうとしても、運転免許を返してもらうためには

“2年以上発作がない”

っというのが条件なので、運転免許がいらないのなら発作を理由に精神障害者保健福祉手帳を更新する事は可能かもしれませんが

運転免許証を返して欲しいなら精神障害者保健福祉手帳の等級が下がっても(返納することになっても)2年間発作がない事をお医者さんに証明してもらう必要があります。(免許証返還時は医師による“最後の発作から2年間発作が無かった”事の証明書が必要です)

僕は2年後に運転免許証の返還をお願いしようと思っているので精神障害者保健福祉手帳の申請は行っていません。しかし

“障害者年金”を受給しようと考えていらっしゃる方は精神障害者保健福祉手帳の取得は大いに考えた方がいいかもしれません。

ちなみに精神障害者保健福祉手帳が無くてもハローワークでは給付金や給付期間が優遇される“障害者登録”ができます(医師の診断書が必要)

ただしてんかんには種々の精神障害や認知機能障害が合併していることが少なくない。

精神障害者手帳の発行においては「発作(+精神神経症状)」と「能力障害」のいずれか重度のほうで判定するか両者を勘案することになっており実際の症状と患者の社会的状況をよく検討して記載するとよい。

3つの手帳の中では“精神障害者手帳”のみJR,私鉄,タクシーなどの減免制度がない。もしくは限定される。また前述のとおり精神障害者手帳を持っていても心身障害者医療費助成制度による医療費の助成は受けられない自治体が多い。

精神障害者手帳の取得者は年々増加しており,2013年3月時点で751,150人と報告されている

1).後述するように障害者雇用における法律の改定により,今後さらに増加が見込まれる。障害者支援区分認定2013年4月施行の障害者総合支援法(旧障害者自立支援法)に基づく新しい制度で,手帳制度における格差解消を目的として整備された。

そのため,手帳制度の等級とは独立で連動しない。

コンピュータによる一次判定に引き続いて市町村審査会で主治医意見書を勘案して区分認定が行われ,福祉サービスがどれだけ必要かが判定される。

意見書のフォーマットは介護保険のものと似ているが,行動および精神などの状態に関する意見の記載欄があり,知的障害や精神障害の特性も反映される。

なお,同一のサービスについては介護保険が優先される。ホームヘルプ,ショートステイ,行動援護,指導支援,生活介護,自立訓練,就労移行支援,就労継続支援,地域活動支援センター,障害者支援施設での夜間ケア,共同生活介護,共同生活援助,福祉ホーム,居住サポート事業,といったさまざまなサービスが提供される。

(サイト管理人)

僕は各種手帳は作ってません。年齢的にまだ働かなきゃいけないのと(苦笑)今は発作を完全にコントロールできているようなので。

でもハローワークでは“障害者登録”をするつもりです。そうすると失業給付が即支給され、更に給付期間が通常3ヶ月なのが最大1年まで延長可能らしいのです。

実際障害者手帳を作っても、メリットは多くないようです。ただしそれ以外の重篤な障害を抱えている場合はケースワーカーなどに相談してみた方がいいでしょう。

3:障害者支援区分認定

2013年4月施行の障害者総合支援法(旧障害者自立支援法)に基づく新しい制度で,手帳制度における格差解消を目的として整備された。

そのため,手帳制度の等級とは独立で、連動しない。

コンピュータによる一次判定に引き続いて市町村審査会で主治医意見書を勘案して区分認定が行われ,福祉サービスがどれだけ必要かが判定される。

意見書のフォーマットは介護保険のものと似ているが,行動および精神などの状態に関する意見の記載欄があり,知的障害や精神障害の特性も反映される。

なお同一のサービスについては介護保険が優先される。

ホームヘルプ,ショートステイ,行動援護,指導支援,生活介護,自立訓練,就労移行支援,就労継続支援,地域活動支援センター,障害者支援施設での夜間ケア,共同生活介護,共同生活援助,福祉ホーム,居住サポート事業,といったさまざまなサービスが提供される。

(サイト管理人)

これはたぶん高齢者や症状がだいぶヘビーなタイプかもしれませんね。介護保険と重複するサービスは介護保険に順ずるか・・・区分認定って“要支援”とか“要介護”ってヤツですかね?

いずれ我々と一線を隔す重篤な障害を持っている方は近くの社会福祉協議会や各市町村に相談してみるべきでしょう。

4:障害年金

障害により日常生活や就労の面で困難が生じた際に受け取る年金。

障害の原因となる疾患の初診日に国民年金に加入していれば障害基礎年金

厚生年金に加入していれば障害基礎年金および障害厚生年金を受給する。

初診から1年6カ月経った日(障害認定日)以降に下記条件が満たされた場合に,等級に応じた障害年金を受給できる。

①初診日にいずれかの公的年金に加入していること

②初診日の前々月までに加入すべき期間の2/3以上が保険料納付または免除期間で満たされていること

③障害認定日またはこの日以降65歳前までに,障害の状態が「障害認定基準」に該当していること

障害年金は,受給金額が大きいものの,制度が複雑であり,長文の申立書が必要で提出書類の種類も多く,書き直しなどで何度も病院や申請窓口に足を運ばなければならず,患者が行う手続きは容易ではない。

そこまで時間と手間をかけて書類が受理されても,診断書で障害の状態,治療や生活状況の経過などが基準に該当していることがきちんと示されなければ審査の結果支給されないことも多い。

障害年金は過去5年まで遡って請求する(遡及請求)ことができるが,初診日の証明と障害認定時の診断書が必要であり,手続きはさらに複雑である。

てんかんの障害認定基準(Table 1)と受給額(Table 2)を示す。これに基づくと35歳男性サラリーマン(平均給与月額40万円 妻,子ども2人)が障害年金1級に該当した場合の試算は下記のようになる。

障害基礎年金:974,125+224,300×2障害厚生年金:657,720×1.25+224,300合わせて2469,100円(100円未満切り捨て)

 

(サイト管理人)

障害年金にはメリットはあっても不利なことは何もありません。発作がなかなかコントロールできない“難治”の場合は受給申請を行った方がいい場合もあるかもしれません。

ただ手続きが煩雑なようなので、こういう事案に詳しい地元の福祉協議会や行政書士の方などからアドバイスいただけるといいですね。

5:障害者雇用制度

障害者雇用促進法に基づき一定割合の障害者雇用を保障する制度である。

法定雇用率は民間企業で2.0%となっており、これを満たしていれば企業に人数×27,000円/月の給付があり、満たしていなければ企業は人数×50,000円/月の納付を行わなくてはならない。

身体障害者の雇用が1960年,知的障害者の雇用が1987年に認められたが、精神障害者の雇用は長らく障害者雇用として認められてこなかった。これが2006年4月より精神障害者も雇用率にカウントできるようになった。

さらに2018年4月より法定雇用率の算定基準に精神障害者の人数も加わることとなり、法定雇用率が段階的に上昇する見込みである。これにより精神障害者の雇用が今後さらに促進されることが期待されている。

なお障害者雇用には該当する障害者手帳が必要となる。

(サイト管理人)

まぁこの給付金欲しさで障害者を雇用したがる事業所があるのも事実!

問題は最下段の“障害者手帳”。さっきは「あまり意味がない」っと言いましたが給付金目当ての事業所のお世話になるには障害者手帳が必要なので、特定の事業所へ就職を目指すなら取得しておいた方がいいかもです。

■運転免許制度

てんかんのある人の運転免許の問題は悲惨な事故を防ぐ意味でも患者の権利を守る意味でも、またわれわれ自身の医師としての身を守る意味でもきわめて重要である。

脳神経外科医として知っておくべき重要事項について概説する。われわれが医師として運転免許制度と関わるのはほとんどが運転免許の取得・更新の局面であろう。

現在運転免許を取得・更新する際には、質問票で過去5年の間に意識を失ったことや運動障害が出現したことがあるかどうか、医師から運転を控えるように言われているかどうか、といった項目に回答することが求められる。

これに該当した場合には医師の診断書の提出が求められる。

医師の診断書は重要な判断根拠となるが、最終判断はあくまで都道府県の公安委員会である。

また医療の常識に基づいて適切な判断をしている範囲で事故が起きたとしても医師が刑事責任を問われることは原則としてない。

したがって主治医として診断書を書くことに過度に慎重になる必要はないが、民事訴訟に巻き込まれる可能性は念頭に置いておく必要がある。

(サイト管理人)

医師の出す診断書が絶対では無くあくまでも公安委員会の“参考”であるということ。

また医師も民事訴訟に巻き込まれる可能性があることから、決してアマい診断書は書かないと思うので、患者の側も普段の診察から“良い心証”を得られるように努めた方がいいでしょうね(笑)

てんかんのある人による交通事故のリスクについて、てんかんのある人は事故を起こしやすいかどうかについて次のような外国のデータがある。

“対健常者”の交通事故リスク比は

  • てんかん1.8
  • 健常者(17~19時間の
    覚醒維持後)2.0
  • 高齢者(70~74歳)2.0
  • 高齢者(≧75歳)3.1
  • 若年女性(≦25歳)3.2
  • 若年男性(≦25歳)7.0と報告されている7)

国内のデータでは2007~2011年の5年間の交通事故375万件のうち、事故の第一当事者の発作・急病によるものは1,331件(0.04%)であり、そのうち事故の第一当事者のてんかん発作によるものは355件(26.7%)であったと報告されている6)。

一方で運転中に意識を失うようなてんかん発作を起こした場合には重大事故につながる可能性があることはいうまでもない。診断書の記載においてはこのような事実を考慮して、発作が起こるおそれがどの程度かを推測する必要がある。

この数値には正直驚きました!数値的には健常者よりも低い

ただし発作がちゃんとコントロールできていればこそで、コントロールできていない場合や薬の飲み忘れなどで大事故を引き起こす可能性が低い・・・とはいえないでしょう。

運転中てんかんの発作によって(どんな事故でも)誰かを巻き込む事故は1度でも許されるはずがないのですから

■法律による厳罰化

てんかんのある人が起こした重大事故に対する世論の高まりを受け、てんかんのある人の自動車運転に関する法律は厳罰化の方向に傾いた。

2014年6月施行の新しい道路交通法では質問票への虚偽記載は

  • 1年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられること
  • 医師は交通事故の危険性が高い患者について公安委員会に届け出ることができること

などが加わった。質問票への虚偽記載の理由として身分証明ができなくなることや免許証にてんかんであることが記載されることへの危惧を訴える患者がいるが、前者については住基ネットカードや個人番号カードなどの写真入りの身分証明書で代用できることを説明し、後者については免許証にてんかんの病名が記載されることは絶対にないことを説明する。

公安委員会への通報は運転を控える旨の十分な説明を行ったうえで、患者‒医師関係に十分配慮して行う必要がある。

医師に通報義務はないが道義的責任に基づいて判断する。2014年5月には自動車運転死傷行為処罰法が施行された。これにより,病気の症状や薬物の影響で正常な運転ができなくなるおそれを認識しながら運転し人を死傷させた場合には

死亡事故で最高懲役15年

負傷事故で最高懲役12年

が科せられることになった。このように自動車運転を取り巻く法律は厳罰化に傾いているが、過度な取り締まりは事故リスクの減少には寄与せずむしろ適正を欠く運転者が潜行するリスクを増大させることに注意が必要である。

てんかんのある人の運転適性診断書の記載項目は、道路交通法施行令の運用基準に則っている。

日本てんかん学会の声明や解説に基づいて要点をまとめる。運転適性は,下記の4つが原則となる。

(1)発作が過去5年以内に起こったことがなく、医師が「今後発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合

(2)発作が過去2年以内に起こったことがなく、医師が「今後,X年程度であれば発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合

(3)医師が1年の経過観察の後「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ今後症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合

(4)医師が2年間の経過観察の後「発作が睡眠中に限って起こり,今後,症状の悪化がない」旨の診断を行った場合

ここで、X年とは生活の状況や服薬の変化など発作が再発する要因になるものが今後ないかどうかを考慮して判断される年数で、通常は2~3年である。X年ごとに診断書の再提出が必要となる。

大型・中型(8t以上)・第2種免許は上記のかぎりではなく、服薬しないで5年間の無発作期間が必要となる。

医師が,「6カ月以内に上記(1)~(4)に該当すると診断できることが見込まれる」旨の診断を行った場合には6カ月の保留または停止とする。保留・停止期間中に適性検査の受検または診断書の提出の命令を発出し

①適性検査結果または診断結果が上記(1)~(4)の内容である場合には拒否などは行わない

②「結果的にいまだ上記(1)~(4)に該当すると診断することはできないが,それは期間中に○○といった特殊な事情があったためで、さらに6カ月以内に上記(1)~(4)に該当すると診断できることが見込まれる」旨の内容である場合にはさらに6カ月の保留または停止とする

③その他の場合には拒否または取り消しとする

上記の基準では判断しかねる個々のケースについては日本てんかん学会が提供している「改正道路交通法に関するQ & A」の記述がわかりやすいためぜひ参照されたい4)。

特に6カ月の保留・停止期間については誤解されている場合が多いように思われる。これは,もう少しで条件を満たすことが予想される患者の免許返納を先延ばしにする猶予期間ではなく、むしろ条件を満たすことに疑義が生じた場合(減薬したら脳波異常が悪化したなど)に診断書の発行を遅らせて経過観察を行う期間と考えるべきである。

実際免許返納を先延ばしにしても運転免許は公安に預けておくことになるので、先延ばしにするメリットはない。

したがって,条件を満たさない場合にはいたずらに更新を先延ばしにするのではなく、いったん免許を返納し、条件を満たした時点で再取得を行うほうがよい。

2014年6月施行の新しい道路交通法では一定の病気に該当することなどを理由に免許を取り消された場合、取り消しから3年以内であれば再取得時の運転免許試験(筆記・技能)は免除されることとなった。

なお適正検査(視力検査など)は必要である。

(サイト管理人)

僕は免許証を返納しに行った警察署の方から「最後の発作から2年経過したら運転免許の再取得ができます。でもちょうど2年経過時に免許の返納を希望されるのであれば2年目の少し前に病院から診断書を取得しておく必要があるでしょう」っと言われてました。ただ上記文章からいくと

大型免許は服薬しないで5年間の無発作期間が必要?

“5年間”は聞いていましたが“服薬無し”で?

自動車運転に関するその他の事項日本てんかん学会法的問題検討委員会が行った自動車任意保険に関するアンケート調査では損害保険会社8社から下記のような回答を得た2)

・特定の病名で加入制限することや保険金の支払いを拒否することはない。ただし,合法的な運転資格が必要

・過去の事故履歴により個別に加入拒否する可能性はある

・保険の種類によって疾病の影響で減額することはあり得る

・てんかん発作による事故(事故の偶然性が乏しい場合)では,支払い拒否する可能性がある

回答が得られなかった会社もあるため任意保険の加入や継続にあたっては,支払い条件を十分確認する必要があると考えられる。

なお自動車保険の給付に際して公安委員会に提出する診断書は通常は必要ない。

カルテに発作がないこと。運転可と判断したことなどがしっかりと記載されていれば十分であると思われる

最後に重要な問題として抗てんかん薬服用中の自動車運転について触れておく。

抗てんかん薬の薬剤情報添付文書に文字どおり従うとてんかんのある人のほとんどは自動車の運転ができないことになってしまう。

添付文書の文言を厳密に適用した場合抗てんかん薬を服用せずに運転する患者が出てくる可能性がある。

抗てんかん薬を服用している患者が必ずしも眠気の副作用を経験しているわけではないことを考慮すると添付文書の記載は現実に沿って見直されるべきである。

日本てんかん学会の見解を示す(Table 3)5).一方で,眠気が強く運転に支障がある患者に対しては,運転を控える指導を行い必要に応じて眠気の少ない抗てんかん薬への切り替えを進めていくことが望ましい。

おわりに普段普通に生活している人が突然発作を起こす、その不可解な症状によりてんかんをもつ人々は長い間差別と偏見に苦しんできた。

これに対しててんかんに関する法・制度の整備はまだ始まったばかりといってよく、発展途上である。

一方ですべての脳神経外科医はてんかんとは無関係でいられない。われわれ一人ひとりが現状の法・制度を正しく理解し、適切に対応していくことでてんかんを取り巻く環境が社会に最適化されていくことを期待したい。

そして何より切実なのは目の前の患者のQOLを改善し、自分の身を守り、なおかつ診療業務に負担をかけないようにしたいという思いである。

本稿がその一助となれば幸いである。

 

者全員は日本脳神経外科学会へのCOI自己申告の登録を完了しています.本論文に関して開示すべきCOIはありません.文 献1)厚生労働省:平成25年度衛生行政報告例の概況.結果の概要.2014.http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/13/dl/kekka1.pdf(閲覧日2018年
3月)2)森本 清,伊藤正利,井上有史,栗原まな:てんかんをもつ人の自動車任意保険の現況:加入資格と支払い条件に関する調査.てんかん研究25:22‒26,2007.3)日本神経学会監,「てんかん治療ガイドライン」作成委員会編:てんかん治療ガイドライン2010.東京,医学書院,2010.4)日本てんかん学会:改正道路交通法に関するQ & A.2014.http://square.umin.ac.jp/jes/images/jes‒image/140912_RoadTrafficLaw.pdf
(閲覧日2018年3月)5)日本てんかん学会:抗てんかん薬の薬剤情報添付文書における自動車の運転等に関する記載についての見解.2014.http://jns.umin.ac.jp/cgi‒bin/new/files/2014_11_07j‒2.pdf(閲覧2018年3月)6)日本てんかん学会編:てんかん白書:てんかん医療・研究のアクションプラン.東京,南江堂,2016.7)Second European Working Group on Epilepsy and Driving:Epilepsy and Driving in Europe. Final Report. 2005. https://ec.europa.eu/transport/road_safety/sites/roadsafety/files/pdf
/behavior/epilepsy_and_driving_in_europe_final_report_v2_en.pdf(閲覧日2018年3月)

てんかん診療に必要な法・制度の知識―社会保障制度と運転免許制度―國井 尚人,齊藤 延人てんかんは発作だけでなく,発作間欠期における認知機能障害や精神症状を伴う罹病期間の長い疾患であり,生涯にわたって
QOLが大きく損なわれる.正しい診断・治療だけでなく人生のさまざまな局面に応じた適切な指導・助言を行っていくことが重要である.そのためには,てんかんの病態だけでなく,てんかんに関連する法・制度の理解が必要となる.てんかんについては,自立支援医療,手帳制度,障害者支援区分認定,障害年金,障害者雇用制度などについて理解しておくとよい.一方で,てんかん発作よる悲劇的な自動車事故は社会問題化している.自動車運転に関連した法・制度は流動的であり,運転免許制度に関する知識の更新を心がけたい.脳外誌27:386⊖392,2018